移入について

植物の中でも水生植物を専門としているので,その立場から移入種がいかに在来種にとって危険なものか考えてみた。植物と魚の違いはあるが、その危険性を考えるという意味では分かりやすい例を提供できるかもしれない。


日本はそもそも急流が多くて水草が育ちにくい環境だと言われている。それだけに尾瀬沼のような清流域や水田の用水路などは非常に価値が高かったと言える。


ここに手元にある図鑑を紹介したい。

日本水草図鑑

日本水草図鑑


写真も豊富で見ているだけでも楽しいものだが,この本の27ページに1977年当時の京都市鴨川の写真が載っている。コカナダモが異常繁殖した様子だ。


河川に生育する植物は流れに耐えるために群落(パッチ)を形成することが多い。しかも流れに種子が流されるため,無性生殖で繁殖することが多いとされる。つまり,植物体の一部がどこかに引っかかって繁殖したり、竹のように地中をはう根から出芽して広がったりするのである。


これが意味することは何か。


この本の写真を見てもらうのが一番分かりやすいのだが,その水域一帯をコカナダモが優占してしまうということである。生育地が優占されてしまえば他の種に入り込む隙間は無い。ここからの話は今僕が考えられる簡単なストーリーなのだが,コカナダモの優占がしばらく続く中で在来種の花粉を送粉する昆虫や果実を食していた水鳥が飛来しなくなる。土中でじっとコカナダモの群落に隙間が空くのを待つ在来種の種子達。ようやく芽を出し群落を主張する頃には送粉者も種子散布者もいない。こうなってしまったこの植物に未来はあるのだろうか。


現在日本に移入して帰化しているコカナダモは雄株だけとのことである。つまり日本の川に広がるコカナダモは,起源が同じかどうかは分からないが,少なくともすべて無性生殖で広まっているということだ。種子散布者も送粉者も必要としない,広がる先を選ばない植物だというわけだ。


野生化が確認されたのが1961年の琵琶湖北湖,水質汚濁の進行した水域にも生育するが湧水のある清水域への侵入も目立っている。日本の生育地のプロットは琵琶湖を中心に同心円上に広まっている様が見て取れる。これを危険ととるのか生態系の中での自然な共存ととるのか。